声を出したくない夜、イヤホンを外せなかった私の小さな違和感について

  • URLをコピーしました!
目次

誰にも話しかけられたくなかった帰り道、無音のイヤホンに守られた気持ち

きれいな女性

外がすっかり冬の色になって、夕方のはずなのに夜みたいな空をしていた。部屋に帰る途中、マフラーの中に息を押し込めるたび、白くならないのが少しだけ悔しい。駅前のイルミネーションはきれいなのに、きれいすぎて、今日の自分のぼんやりした顔と噛み合わない感じがした。

一人暮らしって、部屋に戻れば「私だけの世界」が待ってる。そう思っていたのに、玄関の鍵を開ける前から、なぜか今日はもう「閉じたい」気持ちになっていた。誰にも会いたくないわけじゃない。でも、誰かとやり取りするための心の手数料を、今は払いたくない。そういう日がある。

イヤホンという小さなバリアの話

イヤホン

今日の小さな出来事は、本当に小さい。帰り道に寄ったコンビニで、レジの前に並んだだけ。いつもと同じ、何も特別じゃないはずの場面。

ただ、私はイヤホンを耳に入れたまま、レジに立ってしまった。

音楽は流していなかった。通知も鳴らない。なのに、イヤホンだけは外さなかった。まるで「今、話しかけないでください」の札を額に貼るみたいに。店員さんが「温めますか?」と口を動かしているのが見えて、私は一瞬だけ迷って、それから小さく首を振った。声が出なかった。出そうとしなかった、が近いかもしれない。

温めてもらえばよかった。今日みたいに冷えた日は、家に着くまでの数分だって、あったかいものが心にしみるのに。

会計が終わって袋を受け取るとき、店員さんがほんの少しだけ笑った気がした。気がしただけかもしれない。私は「ありがとうございます」も言わずに会釈して、そそくさと店を出た。

外に出てから、遅れて恥ずかしさが来た。
「なんで声、出せなかったんだろう」
そして、もっと小さく、誰にも言わなかった本音が浮かんだ。

“今日は誰にも優しくされたくなかった。優しくされたら、返さなきゃいけない気がするから。”

自分で書いてみても、ちょっと意地悪だ。しかも、相手は仕事をしていただけなのに。でも、その「返さなきゃ」が、今日は重かった。

「感じのいい人」でいたい気持ちが、しんどい日もある

感じのいいひと

家に着いて、コートを脱いで、袋をテーブルに置いた瞬間、急に疲れが見えた。体の疲れというより、気持ちのほう。今日の私は、たぶん一日中、薄く緊張していた。

仕事で誰かにお願いするときの文章。返信の言葉選び。雑談の相槌。
当たり前にやっているはずのことが、今日は全部「演技」みたいに感じてしまった。

だからコンビニでイヤホンを外さなかったのは、反抗でも無礼でもなくて、たぶん“省エネ”だったんだと思う。人と接するためのスイッチを、どうしても入れたくなかった。声を出すのが面倒だった。笑うのが面倒だった。感じよく振る舞うのが面倒だった。

こういうとき、私は自分のことを「性格が悪いのかな」って疑いがちになる。でも、今日の違和感はそこじゃなかった。性格の問題というより、“余裕の残高”が足りないだけだった。

そしてもうひとつ、ちょっと怖いことにも気づいた。
イヤホンって便利で、ひとりの世界を作れる。でも、その便利さを理由にして、私は「人との接点」を自分から削っている。削って、削って、楽になったはずなのに、部屋に戻った瞬間に、なぜか寂しさが残る。

たぶんこれ、わかる人にはわかる。
“誰とも話したくないのに、誰とも話さないと心が乾く日、ある。”

夕飯を温め直しながら、ふと思った。今日の私が本当に欲しかったのは、優しさを受け取らないことじゃなくて、「返さなくてもいい優しさ」だったのかもしれない。会計のときの一言に、ちゃんと「ありがとうございます」と返せる程度の余裕。そんな小さな余裕が、今日はなかった。

じゃあどうしたらいいのか、と大げさな結論を出す気にもならない。これを“成長”とか“気づき”とか言い切るのも、なんだか違う。ただ、明日もし同じ状況になったら、イヤホンを片耳だけ外してみようかな、くらい。完全にオープンにはなれないけど、完全に閉じるのも、たぶん自分が疲れる。

夜、洗面所の鏡に映った顔は、思ったより普通だった。特別落ち込んでるわけでも、泣きそうでもない。でも、今日の自分の中には確かに「閉じたい」があって、それを無かったことにしないでいられたのは、ちょっとだけよかった。

今日みたいに、何も起きていないのに心が疲れる日。
あなたは、どんなふうに自分を守っていますか。イヤホンみたいな小さなバリアを、いつもより強く握りしめてしまう日、ありませんか。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次